ダイヤモンドは産地によって特徴があります
研磨済みダイヤモンドには国際基準4Cを基にした基準価格が設定されています。では未研磨のダイヤモンドにはそうした基準価格は無いのでしょうか?実はダイヤモンド原石にもグレードが有り、基準価格が存在しています。
現在はレーザースキャニングの技術が向上した為かなり正確に価値判断できますが、1990年以前は産地や原石の大まかな形でグレーディングされていたようです。
中でも産状は重要です。とりわけ一次鉱床か?二次鉱床か?は大きな要素でした。歴史的なダイヤモンドの出現率が二次鉱床の方が高かったことも起因しています。そうしたダイヤモンドの鉱床による違いを書いてみたいと思います。
ダイヤモンドには一時鉱床と二次鉱床が有ります。一次鉱床はダイヤモンドが地下マグマから運ばれて来た、その通り道でもある沈静化した火山のマグマに垂直に穴を掘ってその中から鉱物を採取する方法を指します。火山のサイズにもよりますがキンバーライトマグマの火山の範囲は通常大きく火口の直径は5キロにも及ぶ場合もあります。新潟の佐渡金山のイメージとは大きく異なる大規模な採掘方法でダイヤモンドは採掘されています。現在有名な一次鉱床はロシア、カナダ、オーストラリア、ボツワナ、南アフリカと主要なダイヤモンド鉱山は全て一次鉱床です。
対して二次鉱床は一次鉱床で地表へ出てきた地下資源が雨風で運ばれて堆積した川底や海底の堆積物を調べる方法を指します。基本的に二次鉱床よりも一次鉱床の方が産出量が多いのですが、採掘コストがかかります。二次鉱床は採掘コストが低い事とダイヤモンドに関して言えばなぜか大粒で高品質な原石が多く産出しているのも特徴です。
その証拠にダイヤモンド業界で原石を”リバー(RIVER)”と呼ぶ場合は原石が高品質である事の意味で使われます。しかし近年高品質ダイヤモンドは何もリバー(RIVER)だけでは無い事も判ってきました。
このコンテンツではどうしてリバー(RIVER)二次鉱床が高品質とされたのか?を紐解いていこうと思います。※BROOCHでは二次鉱床の鉱山企業との取引は有りますが、基本的に一時鉱床のダイヤモンド原石を取り扱っています。(デビアスグループのナミビアでは海底の沖積鉱床で採掘しています。)
最初は二次鉱床だけで産出していた
ダイヤモンドは1866年までインドとブラジルがその産地でした。ブラジルもインドもいわゆる二次鉱床でした。しかし、簡単に川底の堆積物や海の堆積物を探せばよいと言うものではなく2~5億年かけてアフリカの火山噴火の堆積物と一緒に大陸の移動によってゆっくりと時間をかけて運ばれてきたダイヤモンドは有るときは土地の地盤沈下と共に地底へ潜り、ある時は土地の隆起と共に地表へと出現すると言った具合でしたので、インドもブラジルも一か所でまとまってダイヤモンドが産出していたわけではなさそうです。一部ゴルゴンダ等の有名なダイヤモンドの谷は存在しますが、実際そこで産出していたのかは?判っていません。
近年の研究でゴルゴンダ産のダイヤモンドは基本的にタイプⅡでしかもクリッパー(CLIPPIR)ダイヤモンドなのではないか?と言う研究が進められています。
インドやブラジルの漂砂鉱床(二次鉱床)産出のダイヤモンドの誕生が地球誕生の秘密に迫る手掛かりとなっているのです。南アフリカやボツワナの鉱山産出のダイヤモンドからもクリッパー(CLIPPER)ダイヤモンドが確認されていますので、特定の一次鉱床の堆積物がインドやブラジルの二次鉱床である事が解明される日が近いかもしれませんね。
※上写真は一次鉱床の産地がミックスされたもの、左はコーテッド、右はニアジェムクオリティ
ダイヤモンドは宝石として流通する事は不可能だった
1866年までに人類がインドとブラジルで発見したダイヤモンドの総数は10万カラットだったと言われています。これは有史以前紀元前5世紀頃からインドでダイヤモンドがカーストの証として用いられていた事を考えるとトンデモナイ出現確率と成る事は容易に想像できると思います。2300年の間に10万カラットですので平均すると1年間に世界で僅かに43カラットしか産出していなかったのです。
宝石品質の割合は20%と仮定しても年間8カラット程度なのでダイヤモンドは宝石として流通する事は不可能だったと考えられます。ダイヤモンドはその鉱物的特性から珍重されたのです。
そしてそれは圧倒的な希少性と共に様々な神話や逸話を伴い人々の間に広まっていったと考えられます。かの大プリニウス(古代ローマの科学者)も自身の著書”博物誌”の中で「ダイヤモンドはこの世の全てで最も価値のあるものだ」と記しています。
プリニウスが博物誌を書いたのは紀元50年頃の話なので、当然当時ダイヤモンドを加工することは出来ませんでした、ダイヤモンドはもっぱらその硬さ故に貴重とされてきたのです。事実プリニウスの考察で”プリニウスは胡瓜(きゅうり)の種ほどのダイヤモンドも貴重視していたが、それらは工具としての実用性が評価されたもので、「宝石」としての評価ではなかった。”と表されています。
宝石としてはルビーやサファイヤエメラルド、真珠の方が珍重されていました。※ルビーやエメラルドはもともとその他の鉱物と混同されることが多かったのです。
歴史上有名なルビーやサファイヤとされていた宝石が後の調査でスピネル等の類似宝石であった事が判明するのは珍しい話ではありません。今もそうですが、古代の科学では判らないことだらけだったのです。
伝説の中のダイヤモンド
聖書の「エレミア書」には(第17章1)「ユダの罪は、アダマントのとがりをもってしるされ、彼らの心の碑と、祭壇の角に彫りつけられている。」と書かれています。
が、ここで使われているアダマントはプリニウスの博物誌の中で使われた”鉄鋼を含めて硬いもの全体を表現した「アダマス( Adamas )という物質の一種として取り上げた」から取られ表現であると考えられています。インドでカーストの証としてダイヤモンドが使われたのもこの比類なき硬さ故、レプリカの複製や模造品の作成が出来なかったことに由来していると思われます。
この当時からダイヤモンドは加工し難い物であることは知られていました。原石の結晶方向に平行に割れる性質”劈開(へきかい)”も解明されていませんでしたので、ダイヤモンドは超硬素材でありながら、時に脆く割れたりするという何とも所有者泣かせな品物だったのです。
しかもプリニウスの記述に出て来る胡瓜(きゅうり)の種ほどのサイズ、、、これでは結晶の方向や加工しやすさとかそういう話に成りませんね。
この頃古代インドではダイヤモンドを砕いた粉末をオリーブオイルに溶いてペースト状にしてそれを木の皮や動物の皮に塗布して研磨材にしていました。
当時この方法は唯一ダイヤモンドを加工する方法だったのです。古代インドのダイヤモンドは少なからずこの方法で仕上げらられ、こうして僅かに表面を磨いて大まかに研磨面を付けた加工のダイヤモンドをムガールカットと呼びます。比類なき硬さから発揮される表面研磨は不完全でしたがそれでも当時の人々を魅了したのです。
ここで注目したいのはこの時発見されているダイヤモンドは全て漂砂鉱床(二次鉱床)のダイヤモンドであるという事です。一次鉱床でダイヤモンドは発見されるのは1866年に最初のダイヤモンドが発見されてから約20年後の1886年頃と言うことに成ります。それまでに地球上で発見されたすべてのダイヤモンドは全て二次鉱床のダイヤモンドなのです。
一次鉱床のダイヤモンドと二次鉱床のダイヤモンドには決定的な違いが有ります。二次鉱床のダイヤモンドは結晶の先端が粗く削れて丸くなり、全体的に丸みを帯びたているの対して、一時鉱床のダイヤモンドは結晶形が完全に残ったまま(過度の尖った結晶の形をしたまま)産出してくるという事です。
ダイヤモンド原石には産地特性が有る
ランオブマインとは、ダイヤモンドの鉱山で使われる地下資源採掘業者の用語です。これはダイヤモンド業界ではダイヤモンドの原石群を見たらどの地域のダイヤモンドか判断できてしまう事を指しています。原石のエキスパートは驚くほど正確にダイヤモンドの産地を目視で言い当ててしまいます。
それだけダイヤモンド原石には産地特性が有るという事です。ダイヤモンドは5億年前頃マグマの上昇と共に地上へ噴出して、その場所で長い時間を経過しています。
マグマの中で結晶した本体と地上での数億年間にダイヤモンドが置かれた状況で外的な影響を受けます。ダイヤモンドの表面や表層にダイヤモンド以外の成長した別の”何か”が被膜の様にダイヤモンドを覆っている事も在ります。ランオブマインではそうした外的な特徴で産地を見抜いて行くのです。
グリーンベールは高品質ダイヤモンド原石の代名詞
ブラジルなどの古い漂砂鉱床のダイヤモンドは表面が何らかの作用で磨かれて茶色の艶消し(すりガラス状)に成っていることが多く、中には薄い緑色の被膜「グリーンベール」に覆われた高品質な個体も稀に確認されます。アンゴラの漂砂鉱床は12面体の比率が高くアフリカ産特有の黄色系ケープ原石がおおく、産状が漂砂鉱床なので表面は自然に粗磨きされ艶消し状に成っていることが多いのです。
ボツワナでは6面の原石が最も多く産出するためにパーセルの中に6面結晶が多くなればボツワナ産と判断しやすいのいです。そしてボツワナ産高品質の代表と言えば「グリーンベール」に覆われたダイヤモンド原石は見逃せません。グリーンベール(緑色の被膜)に覆われたダイヤモンド原石からはハイカラーと呼ばれるカラーグレード上位のダイヤモンドが出現する事で知られています。
BROOCHでは取り扱いませんが、ロシア産のダイヤモンドは一次鉱床で8面体が多くグラッシーで透明度の高い原石が多く産出しています。中に脆い石も含まれ、研磨が容易いダイヤモンドが多いのです。他にロシアの特徴としてアイスホワイトと呼ばれる氷のような見た目の白色に若干のブラウンカラーへ濁ったような原石も多く見れます等。
一次鉱床では等軸状の結晶がそのまま残っているケースが多く、二次交渉ではダイヤモンドは自然に磨かれ角の無い丸いフォルムの原石が多くなります。
※原石エキスパートであっても1石だけで見極めるのはとても困難です。また産地がミックスされたパーセルの中からこの石が何処産であるかを言い当てるのも困難だそうです。
あくまでも産地ごとの原石が集合している場合です。ランオブマインで原石の集合体を見ると産地のおおよそを言い当てる事が出来るのは、原石の受けている外的要因が産地によって特性が有り一定の確率で外観が似ている事が要因なのです。
解明されるダイヤモンドの謎
1880年以前に開発されたオールルドマインカットやマザランカット等のアンティークカットは全て2次鉱床産出のダイヤモンドを研磨師して仕上げて有るという事です。もともとの結晶の形が不明瞭だったためプリニウスの文献でも紹介されていた8面体結晶の結晶目で有ると仮定してダイヤモンドをへき開することが多かったことから現存するアンティークカットは8面結晶のダイヤモンド率も高くなります。6面や12面のダイヤモンドをへき開すると思わぬ方向に砕けてカット失敗となったのです。
ランオブマインの様に結晶形が残ったまま産出していたならば、古代の学者たちにもダイヤモンドの特性や劈開を容易に見抜く事が出来たかもしれません、しかし、長い間自然に磨かれて角の取れて丸くなったダイヤモンドでは、もともともの結晶の形が6面なのか?8面なのか?12面なのか?それともマクルや複合した形なのか?は外観から判断するのはとても困難だったのです。
その為、劈開を利用してグリーピングするのは不確実でギャンブル性が高くとても危険な事でした。思わぬ方向に砕けてしまっては折角のダイヤモンドが台無しだからです。しかも1次鉱床で産出するダイヤモンドにはグラッシーな結晶が有るのですが、2次鉱床のダイヤモンドは例外なく表面は無数の小傷に覆われていて角の無い丸型形状で、しかもフロステット若しくはそれに近いダメージの状況で産出してきます。
では1次鉱床ダイヤモンドは何時頃発見されたのでしょうか?それはアフリカで見つかります。アフリカで最初のダイヤモンドは1868年に農夫の少年がオレンジ川で発見しますので、最初のダイヤモンドは漂砂鉱床(1次鉱床)です。
その後、ダイヤモンドの発見される場所には特徴が有る事が判ってきます。この間、様々な地層の研究が行われ、そして20年の歳月をかけてようやくダイヤモンドを含む火山マグマの跡地にたどり着きます。しかし、この時世界は未だ大規模な鉱山採掘の技術を持っているわけではありませんでした。
1886年アフリカでダイヤモンドの一次鉱床を発見
ダイヤモンドは2017年まで地下150-200キロで結晶していると考えられていました。それはダイヤモンドに内包される他の鉱物がこの深度帯に分布する鉱物が主だったことが原因です。特にガーネット、オリビン、スピネルはダイヤモンド内部に内包される3大内包物とでもいえる代表的な内包物です。
その為、当初アフリカでダイヤモンドを探す際、トレジャーハンターたちは先ずはガーネットを探したと言います。ガーネットが見つかればその近くにダイヤモンドが有る確率が高かったのです。期せずして沈静化した火山の火口部、特に火道上部でのダイヤモンド原石の発見が相次いだのですが、程なくその場所が火山の火口が風化して、地質分解が進んだ部分だという事が解明されたのです。ダイヤモンドが地底深くから運ばれたものだと判明するまでしばらくの時間がかかります。が、その事実は次第に広く受け入れられていくようになります。
1次鉱床でのダイヤモンドの採掘量は2次鉱床のそれをはるかに上回る量でした。1868年アフリカで最初のダイヤモンドが見つかってから毎年100万カラット程度が2次鉱床(漂砂鉱床)から産出していましたが、1次鉱床では1つの鉱山で年間300万カラット近くが毎年産出したのです。
1次鉱床から産出するダイヤモンドにはそれ迄の2次鉱床では無かった特徴を持っていました。それはダイヤモンド原石の輪郭がそのまましっかりと残った状態で採掘された事です。2次鉱床では無くなってしまっていたダイヤモンド原石の角が残った状態で産出したのです。これによりダイヤモンドには同じ等軸状でも6面、8面、12面の大きく三つの形状が有る事が判明し、劈開の方向も見定めやすくなったのです。
現在ダイヤモンド原石は漂砂鉱床での採掘はほとんど行われていません、ナミビアなどの超大規模漂砂鉱床では採算が合うのですが、鉱山企業が採掘する場合には埋蔵量に限りがある漂砂鉱床では大規模採掘ではなく小規模の採掘で鉱山のコストを下げる必要が有ります。
その為、世界の主要鉱山の中には二次鉱床は含まれません。しかも鉱床の違いによるダイヤモンドの価値に差がない為にどんな鉱山で産出したのか?は不明なまま販売されることが殆どです。
1900年当初のアフリカでは1次鉱床のダイヤモンドよりも2次鉱床である漂砂鉱床から産出したダイヤモンドの方が最終的に高いグレード分類に成ることが多かったことから漂砂鉱床のダイヤモンドを珍重していました。川底の堆積物から見つかったダイヤモンドは業界でリバー(RIVER)川と呼ばれて、現在でも高品質原石の呼び名として名残が残っています。
(※本当にリバー鉱床のダイヤモンドではないにもかかわらず高品質の場合はリバーと呼ぶ)一部専門家の中には2次鉱床のダイヤモンドはマグマの噴火で地上に運ばれる際、火山の先端部分で岩盤を下から突き破って吹きあがってくる勢いのあるマグマの中にある可能性が高いために圧力と温度が強くダイヤモンドがより高温高圧で維持されていた事が、ダイヤモンド原石に良い影響を与え、硬度が高く保たれた結果、高品質であるとする意見も有ります。
ダイヤモンド原石がどんなものだったのか?は研磨済みダイヤモンドから伺い知ることは通常できません。しかし、一生の記念となるダイヤモンドですから、それを取り扱うジュエラーにどんな原石で、どんな所で産出したのか?を質問して、その生い立ちを知ることはお客様にとって大事な事であると私たちは考えています。
私たちの取り扱うダイヤモンド原石はボツワナ産のジュワネングを中止とするデブスワナ・サイト産で産地毎の品質レベルではボツワナは世界最高です。現在最も多くのダイヤモンドを産出する国はロシアです。ロシア産も1次鉱床で、産出当初グラッシーで透明度が高く、アフリカ産では中々出現してくれなかったハイカラー(F以上のDカラー寄り)が多く出る事で取引価格も上昇して人気の鉱山です。2020年現在1次鉱床ではロシア、ボツワナ、南アフリカ、カナダ、オーストラリアの5か所のみ、漂砂鉱床ではナミビアやアンゴラ、コンゴ、シエラレオネと僅かにブラジルとインドともっと小規模な漂砂鉱脈が世界中に点在しています。
4C評価で取引される研磨済みダイヤモンドでは原石の品質差や産地名による販売価格の差異は在りませんが、お持ちに成るダイヤモンドの産地に想いを馳せるのも素敵な事だと思います。BROOCHではボツワナのジュワネング鉱山を中心とするデブスワナのトップ原石を中心に原石の選定を行っています。